インドの弁当箱
■ヒンディー語で弁当箱の事を『ダッバー』という。
インドの弁当箱は2段から3段の重ね式で、素材はステンレスのものが現在主流である。
これは単に『箱』という意味でも使われる。イスラムやキリスト教、ジャイナ教、スィク教など種々雑多な宗教が混在し、ことに階層や地方ごとに別個の食習慣を持つヒンドゥー教徒が多数派を占めるインドでは、それぞれに食のタブーや戒律といったものが存在する。
ヒンドゥー教徒が菜食を重んじる事はよく知られているが、肉食、それも牛を日常的に食すヒンドゥー教徒もケーララ州には存在するし、一般に肉食へのタブーが無いイメージのあるスィク教徒の中には厳格に菜食主義を貫く人々もいる。イスラム教徒も基本的にハラールという、同胞によって捌かれた肉以外の肉は不浄視されるが、平気で飲酒するムスリムも多い。 このように10人のインド人が居れば10通りの食習慣が存在する国がインドなのであり、世界広しといえどここまで複雑な食体系を持つ国も無い。
■従って、例えば農村などの村落共同体に於いて、食事時になるとそれぞれの家に帰りそこで母または妻が作った食事を家族と共に摂れば何も問題無い。(この考え方は今でも多くのインド人が持っていて、大概の人は『お母さんの料理が一番』であると考えている。これは決してマザコンではなくそのような伝統に根ざすものである)
しかし近代に入り都市生活者などが紡績工場といった労働集約型の産業に従事する機会が多くなるにつれ、上述の食習慣差による問題が現れる。近代の都市化はそうした食を含めたインド人の宗教的慣習を希薄にさせたが、一方で伝統を重んじたり食の習慣を継続しようとする人々も出てくる。また外食よりも家庭食の方が安く済む。そこで都市部では労働者が自転車にスチールの弁当箱をくくりつけ、出勤するのがインドの朝の風景である。そうした都市部の中でも最も弁当文化の発達したのがボンベイ(ムンバイ)で、弁当を各家庭から職場への配達のみを仕事にした『ダッバー・ワーラー』という人たちも居る。彼らは各家庭の母や妻が詰めた弁当を各学校・勤務先に列車を使って届けるのが仕事で、『ダッバー・ワーラー』はボンベイ市内に約5,000人存在し、約20万の弁当を配達している。彼らの組合も存在し、現会長はSopan Mareである。
こうしたインドの弁当箱がいつ頃誕生したのかは不明だが、19世紀頃には既に『ダッバー』は存在していたらしい。この重ね式・金属製の弁当箱は広くアジア全土に見られるものだが、おそらくインドのそれが最も古い歴史を持つものであると思われる。
■タイの弁当箱
■一方、タイにもインドの『ダッバー』と同形体の弁当箱が存在する。タイ語で『ピントー』と呼ばれるこの弁当箱は元来中国文化の強い影響下にあったタイで、中国系の竹篭の弁当箱(蒸篭のような円筒形のもので、現在でも東南アジアの市場では売られている)が金属化したものである。ただし一般的な意味で弁当箱として使われる事は少なく、料理のテイクアウト用、寺院の僧への料理の寄進などに使われる。…(04年2月7日) インドの弁当箱はこちらからご購入下さい。
■↑この話しを元にラジオNIKKEI
『アジアTODAY』に 取材協力・出演しました(05年5月31日) |